カクカタリキ

趣味について考えたことを書いています.考察より妄想に近いブログです.

映画「糸」を観て

映画「糸」を観ました.映画の概要等については公式ホームページを参照.隠すようなストーリーでもありませんが,多少ネタバレを含みます.

ito-movie.jp

 私は小松菜奈さんがとても好きで,「恋は雨上がりのように」以降の出演作は一応欠かさず観ています.「サムライマラソン」,「さよならくちびる」,「来る」,「閉鎖病棟」と2〜3年で4作の映画に出演しているのだから,売れっ子といっていい女優です.ただこうして作品を並べてみると,作品に恵まれていないという感想を禁じ得ません….おそらくこの4作で最もしっかりしていたのは「来る」で,それ以外は積極的に勧められる作品では…ないかもしれません.

 「糸」はどうかといえば,控えめに言って「観てもいいんじゃない…?」というところでしょうか.積極的には勧めませんが,テレビであれだけ番宣している映画ってあんなものかもなっていう気もしてきます.私は恋愛・ラブストーリーが得意ではありませんが,それを差し引いても,なかなかにつらい2時間でした.

 

 

  1. 一本道のラブストーリー

     ラブストーリーを見慣れていない私は,テレビやネットなどで「糸」の番宣・宣伝を見ていたからか,なんとなく菅田将暉さんと小松菜奈さんが演じる2人結ばれるんだろうなとイメージを持ってしまいました.案の定,そういう結果に落ちつくわけですが,そのイメージを持ったために,物語の途中に登場する人物たちをいかに物語から退場させるのか,この点に大きな関心を寄せてしまいました.それ自体は悪いとは言えません.「糸」の歌詞にもあるように,それぞれの人生を歩んだ末にも出会う必要があるわけで,どのように人と出会って別れたのか,人物の描写としてだけではなく主題から鑑みても,こうした人たちを描かなければなりません.

     斎藤工さんは失踪.山本美月さんは裏切り.榮倉奈々さんは病死.退場の仕方はそれぞれです.ただ,特に工夫も感じられないと言いますか,比較的陳腐な出会いと別れに思えてなりません.特に榮倉奈々については退場するために登場したと言っても過言ではないような,可哀想な役回りに感じました.榮倉奈々さんの役作りや演技が素晴らしかっただけに,もったいない配役です.

     最終的に小松菜奈さんと菅田将暉さんが結ばれるエンディングに向かうとしたら,菅田将暉さんと結婚した榮倉奈々さんは,離別するか死別するかの2択に限定されます.結果,榮倉奈々さんは「糸」に寄せたポエムを宣って亡くなりましたが,特に驚きも感動もなく,然もありなんとしか言えません.

     ゴールがある程度まで想定されるラブストーリーのプロットを考えるのは非常に難しいんだろうなと思い知らされますね.それにしても,人の死は,感動を呼びますかね.邪魔者を退場させるための寒いギミックにしか思えません.

  2. 「糸」は「運命」というブラックボックス

     「糸」っていう主題は結局,「運命」と言い換えられると思うんですよね.それって結局,映画で描ききれない疑問点を残しても,運命というブラックボックスに回収されちゃうわけで,この映画ではそれがあまり効果的に働いていないような気がします.

     そもそも小松菜奈さんと菅田将暉さんの結婚式での再会は運命的かは横において(渋谷でばったり再会した方が運命的では…),最終的に2人は函館で「運命的」な再会を果たしました.小松菜奈さんは倍賞千恵子さんの子ども食堂を訪れ,菅田将暉さんの娘と会い,娘を迎えに来た菅田さんと再会しそうになりますが,倍賞さんから事情を聞かされ,声をかけず函館に向かいます.一方,菅田将暉さんは娘の話から,子ども食堂倍賞千恵子さんから「おかえり」と言われた女性がおり,それが小松菜奈さんだと勘付いて,車を走らせ美瑛から函館に向かいます.小松菜奈さんはフェリーに一度は乗り込みますが,虫の知らせか菅田さんを探しにフェリーを下船し,そこで2人は再会しました.

     菅田さんが娘さんの話から小松菜奈さんだと確信したところ,小松さんがフェリーを下船し菅田さんを探しに行ったところ,「運命」としか言いようがありません.なんで「おかえり」だけでわかったの?なんで菅田くんがきてるってわかったの?などの疑問が通用する世界線ではないようです.

     また,小松さんは急いて函館に向かう理由があったわけでもなさそうでしたが,菅田さんに接触せずに一目散に函館に向かっています.「運命」の悪戯なのか,そうしたために,函館での「運命的」な再会が果たされました.

     クライマックスに向かう北海道の場面は,都合よく配偶者がいなくなった菅田さんと,シンガポールでの再起ではなく,生まれ故郷に戻ることを選択した小松さんがニアミスするところまでは疑問はありませんでしたが,そのあとの展開は「運命」と呼ぶにはふさわしいほどには,説明が足りていません.

  3. 主題はなんなの「糸」?平成を振り返る?

    この映画は中島みゆきさんの「糸」を映画化したものです.記憶に新しいのは中島美嘉さんの「雪の華」ですが,それと同じような試みだと思います.そのため必然的に主題は「糸」の歌詞に沿う形で設定されていますが,この映画には「平成を振り返る」というサブテーマのようなものもあったようです.要所要所で,9.11や3.11の描写やその影響が描かれています.これは主人公の2人が平成の始まりに生まれ,平成の終わりに再会し結ばれることに関連させたサブテーマです.

     ただ全てが中途半端に感じたのは,サブテーマだからでしょうか.せめて,拓銀の破産など北海道の経済に関係の深い出来事を少し取り上げるだけでも違ったのではと思えてなりません.実際のところ設定として北海道にこだわっているのは中島みゆきが北海道出身だから,としか考えられないほど,北海道の扱いや描き方には不満が残ります.

     平成という時代を通して,北海道は比較的辛い時間を過ごしているので,それが2人の幼少期や菅田さんの成人期に少しでも影響があれば,平成を振り返るという意味では深みがあったように思います.

  4. 終わりに

     私がラブストーリーに慣れていないから,映画にうまく入っていけなかったのか,それともこの映画が…などと考えてしまいます.しかし色々と言いたくなる映画なのは間違いありません.そして,テレビ出演などを重ねた豪華な番宣を皮肉るような映画の全体的なチープさは,30代に突入してしまった私には辛いものでした.

     映画でも成田凌さんの結婚式で,2人の人生と馴れ初めを振り返るビデオが流されていましたが,まさにあのようなビデオを2時間の尺で作成したような,そんな映画でした.結婚式で泣く人がいれば,この映画を見て泣く人もいるでしょう.実際,映画の口コミをみるかぎり,泣いている人や絶賛している人が多そうです….